【成功へのステップ】ゴリオ爺さん/バルザック①

 バルザックの小説『ゴリオ爺さん』は、革命後の余波に揺れる1819年のパリを舞台に、南仏の没落貴族出身の青年ラスティニャックが立身出世を目指す姿を描く物語である。彼から現在を生きる私たちが学べることは何だろうか?

 

当時のパリは現在の東京のように稠密な都市であり、金と欲望が渦巻く街である。その日暮しの労働者たちもいる一方で、貴族やブルジョワたちは豪奢な暮らしぶりを満喫している。ビジネスで成功した人たちが湾岸のタワーマンションに集うように、パリでも高級住宅街にブルジョワたちが集う。高級ブランドの洋服やバッグを見せびらかすように、貴族たちが舞踏会でドレスを競っている。人の心理は、時と場所が隔たっていても変わらないのだと面白く読めた。ラスティニャックは、出世を目指して上流階級に潜り込み、成功を収めた。

 

■あらすじ ※がっつりネタバレ
 ラスティニャックはみすぼらしい下宿に住まい、大学で法学を学んでいる。法曹になることを目指していたが、やがて出世のためには後ろ盾となる縁故が必要であることに気づき、社交界に足を踏み入れることを決意した。幸運にも遠い親類に大貴族ボーセアン夫人がおり、助力を得られることとなった。また、実家のなけなしの財産から多額の援助をはたいてもらうことで、サロンに出入りすることができるようになった。しかし、そこで目の当たりにしたのは、慇懃無礼で嘘と虚栄心に満ちた人々の姿であった。
 ラスティニャックと同じ下宿に住むヴォートランは彼の出世欲に目をつけ、遺産目当ての暗殺の共謀を持ちかける。同じ下宿に住むヴィクトリーヌという少女が、実は資産家タイユフェール氏の非嫡出の娘であるというのだ。ヴィクトリーヌはラスティニャックに惹かれており、ラスティニャックが望めば彼女と結婚することができる。ヴォートランが知人に頼みヴィクトリーヌの兄に決闘をけしかけ殺せば、タイユフェールの唯一の子供であるヴィクトリーヌに遺産が転がり込むだろうという算段である。彼は現在の日本円にして5億もの大金と、ヴォートランの欺瞞と偽善に満ちた社会に反抗するような思想に抗えない魅力を感じつつも、堅実に自らの努力によって出世すべきと良心との間で葛藤する。
 ラスティニャックは社交界での後ろ盾を得るため、デルフィーヌという女性に接近するが、デルフィーヌもまたボーセアン夫人と繋がりのあるラスティニャックを手元に置いておくことで、一流のサロンに出入りする足がかりとして利用しようとしていた。新興ブルジョワの銀行家に嫁いだ彼女は、古くからの名門が集まるサロンからお誘いがかからなかったのである。ラスティニャックは彼女に近づくために両親からもらった財産をほぼ使い果たしてしまう。金の必要性に迫られてヴォートランの誘いに傾倒しかけたところ、突然警官たちが下宿に乗り込み、ヴォートランは逮捕されてしまう。実は彼は指名手配中の脱獄犯だったのである。
 ところで、デルフィーヌはラスティニャックと同じ下宿に住む実業家ゴリオの娘であった。ゴリオはデルフィーヌともう一人の娘アナスタジー(貴族のレストー伯爵のもとに嫁いだ)の二人を偏愛しており、自らの経済状況を顧みず甘やかしてしまう。彼は財産のほとんどを彼女たちに分け与えてしまった結果、苦学生のラスティニャックと同じ下宿で暮らす羽目となっている。ラスティニャックはゴリオの純粋な父性に心打たれるが、娘たちはゴリオを単なる金づるとしか見ておらず、義憤にかられる。ゴリオの娘たちは同じ舞踏会に出席することになり、お金をゴリオにねだりに下宿を訪ねたところ、鉢合わせしてしまう。普段から中の悪い姉妹のことであるから罵り合いの喧嘩に発展し、その場に居合わせたゴリオは心労で卒中に倒れてしまう。ラスティニャックは父親が危篤のときぐらい舞踏会よりも看病にきたらどうだと姉妹たちに要請するが、彼女らは一向に下宿に来ようとしない。苦しみぬいた挙句娘たちを呪いながらゴリオは死の床についた。娘たちは葬儀に参加することもなく、ラスティニャックは社交界の人々の冷淡さに薄ら寒い感情を覚えた。それでも俗悪な世界に打ち勝ち、登りつめていくことを決意したところで物語は幕を閉じる。(パート2に続く)